目標に向かって頑張っている人に読んでほしい話。
外は、窓を閉めていても雨音が聞こえてくるほどのザーザー降り。
部屋の中から庭を見る父の背中は悲しそうに見えた。
父はこれといって取り柄のないごく一般的な定年間近のサラリーンマンだ。
しかし、そんな父にも生きがいとなっている唯一の趣味がある。
それは、骨董品集め(私から見たらガラクタ集めだけど)。
月に一度、開かれる蚤の市を生きる楽しみとしている。
そして、蚤の市で偽物を避け本当に価値のあるものを選ぶために、どこへ行く時も愛読書を持ち歩き、毎日勉強をしている。
「こんな本どこに売ってるの?」と言いたくなる、それ自体が骨董品のような見たこともない本ばかりだ。
我が家のトイレの中は骨董品図書館状態。母は定期的に、父の本棚に戻すのだが、時間が経つとまた本が積み上がっている。
笑ってしまうような話だが、50代も後半の大の大人が、蚤の市の前日の夜はワクワクして眠れないほどだと言う。
でも、屋外で行われるため、蚤の市は雨の日は中止になってしまう。
「今日は、中止なんだ?残念だったね」
私は、父を慰めてあげるつもりで、話しかけた。
「これだけ、本降りだと、さすがに中止だ。貴重なお宝たちが濡れちゃうからな」
しかし、このあと、父はが続けた言葉は意外なものだった
「でもな、父さんはそんなに悲しくはないんだ。
毎日、寝る前にベッドの中で本を読む時間や、前日のワクワクもひっくるめて蚤の市。
だから、今日みたいに雨で中止になっても、半分は蚤の市に行ったようなものと思ってるんだ」
この日は、私の大学入試を間近に控えた2001年1月末の日曜日だった。
父は、さらに私に向かって言った。
「お前も、ここまで必死に勉強してきたんだろ?半分は合格したようなものだよ」